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** 伝統的なタイのシルクと 現代化されたタイのシルクは 趣が違います **

 POST BOOKS 社が発行している Jennifer Sharples女史が書いた「Thai Silk」 から 記述順序を変更して 抜粋したものです。

 一見 化繊と見間違える ジムトンプソン・シルクに代表される 欧米マーケット向けに開発された プリント模様の現代化された大量生産のタイシルク (もちろん 化繊と絹布では着用感は全く違いますし その国際的評価は確固たるものです) と 伝統を踏まえた手染め、手織りの絹織物とは 製法・模様・材質等の点で 似て非なるシルクであることを ご理解いただければと思います。

1  プリント印刷技術により 現代化されたタイシルク

 世界的には 生地にコンピューターを使って模様を描くプリント印刷技術が一般的になっていますが タイでは 結果の見た目は 同じですが まだ 旧式のシルクスクリーン印刷技術が 大部分を占めています。このシルクスクリーン印刷技術は 布の模様デザインを 何枚もの平板のスクリーン(製版)を作り それを 次ぎから次ぎへと 布に印刷して行きます。

 各々のスクリーンには 模様デザインは 直接手で あるいは 型紙を使って 写真のネガを使う(写真製版)こともありますが 描いて行きます。その模様部分以外の所は インクが浸みない材料を 当てます。模様デザインが 意図通りになるかを 小さな布を用いて 試し刷りをします。

 顔料、製版、布が準備できると 絹布を裏表にして 長い印刷台に乗せます。模様の一色だけ印刷するスクリーンをセットします。1枚のスクリーンが 一色だけを 絹布全体に 印刷してしまいます。一つの色が 乾ききると スクリーンを取替える この繰り返しを 意図した模様デザインの色 全てが印刷されるまで 続けます。

 印刷が終了した絹布は 乾燥のため 印刷台の上に 掛けられます。たとえば 九色を使って 36メートルの絹布の模様を印刷するのに必要な時間は たった 5時間程度です。

 電子制御で各スクリーンを絹布にセットする 自動化されたシルクスクリーン印刷は 生産スピードは もっと速くなります。使用する顔料が 自動的にコンベアベルトに運ばれ 次ぎから次ぎへと 模様が印刷・描かれて行きます。全ての模様が印刷し終えると 今度は 自動的に乾燥機の中に運ばれます。この方式ですと どれだけ沢山の色を使用しても 大体 20枚程度のスクリーン(製版)が あれば 事足ります。

 模様が印刷された布は 定着していない色とか その他の不要な物質を取り除くために 熱いお湯で 洗います。乾燥された後 縮み防止、シワ防止 そして 手入れが容易になるように 布を 化学材料で加工します。

2  タイの 伝統的な繭・絹糸づくり

 タイでの従来からの絹織物生産は 住んでいる村の地域環境で若干の相違はあれ 基本的には 家内工業です。最近では 桑の木を栽培して 蚕を育てて繭を売るだけの人もいますし あるいは 生糸は買ってきて 売るために それを染めて織るだけの人も います。蚕の卵・幼虫を育て 糸を紡ぎ 布として絹織物を完成させるまで一貫して取組んでいる人は 少なくなりました。

 糸を吐くのは 全ての蛾と蝶が分類される鱗翅(りんし)目に属する昆虫には 全て見られるものですが 絹糸として利用されるものは 大きく分けて 二つです。一つは いわゆる養育種の「カイコガ科」、もう一つは 野生種の「ヤママユガ科」です。

 カイコガ科では カイコ(カサン)が 一般的に利用されています。家畜化された幼虫であり 餌は 大量の桑の葉のみです。一方 ヤママユガ科の幼虫は 世界に500種程度あると言われ 餌としては 様々な木の葉を食べます。家畜化されたものよりは がっしりとしていて 絹糸は 色は 白というよりは ページュとか 黄色いものまであり 取り出せる糸も短くて ゴワゴワしたものです。

 タイでは 二種類のカイコが育てられていて 一つは 二化性(1年に2回絹糸を吐く)で 機械織りに適した白い色の絹が産出され もう一つは 多化性(年間に絶え間無く絹糸を吐く)で 伝統的なマットミー織りに使われる手織り用のハタに適した 少しゴワゴワした黄色の絹糸を産出するものです。
日本の白い繭・絹とは違って 黄金色の繭・絹です。個性的な風合いを醸し出します。

 蚕の一生は 卵(カイ)、幼虫(トゥアノーン)、蛹(さなぎ・ダクデー)、成虫(蛾・ピィスゥア)の 四つのステップを経ます。20,000個の卵から 15,000個の蚕が育てば まあまあ 成功の部類なのですが ロスを最小限にするために 「まぶし」という 仕切りのある特別なトレイに入れ 手厚く育てます。

 最近では 現代化された模様・風合いを好む欧米海外マーケット用としての タイ・シルクの品質と生産量を上げるために 徹底的に管理する蚕飼育技術と環境の下で 日本産の蚕がタイ産の蚕に置き換わりつつ あります。


 現代化されたタイシルクの需要が伸びるにつれて 家内工業での小生産から 大規模な工場での布地生産が 急速に伸展してきているのが現状で 結果として 絹糸の量が不足してきています。緯糸(よこいと)にはタイ産の絹糸を使いますが 経糸(たていと)には 中国とか日本からの海外物の絹糸が 強くて 機(ハタ)にしっかりセットできるということで 使用することが多くなっています。

 タイの蚕では 100グラムの絹糸を作るのには 1,000個以上の繭が必要となる計算です。単純に見積もっても 絹のネクタイ1本を作るのに500個を越える繭が必要であり ブラウスでは4,000個、イプニング・ドレスを作るとすれば 8,000個の 繭が必要となります。

3  絹糸の品質について

繭から引き出される過程によって タイでは 絹糸の品質は3区分されます。

マイ・トン(または フゥア・マイ)
 これは 最初に繭から引き出される つまり 繭の表面の糸の名前です。この絹糸は 太くてキメが粗く 鈍い黄色味の濁りがあります。精錬、漂白の工程を経て 糸として利用しますが 太くて ゴワゴワした物になります。

マイ・クラン(または マイ・ソーン)
 マイ・トンが引き出された後の糸で スムーズに 糸を引き出すことが出来ます。一つ一つの繭の同じ部分の糸を繋(つな)いでいきます。 糸枠を用いて 絹糸の太さを 均等に そして 節(ふし)の少ない滑らかな糸に 出来あがります。

マイ・ノーイ(あるいは ヨ・マイ)
 これは 繭の最芯部から引き出される糸です。黄色で素晴らしい繊細なものです。いろいろ複雑な工程を経て この部分の糸は 最も価値のある 高価な絹糸となります。

4  タイでの絹織物の 伝統的な模様と手織り手法

 家内工業での織物 特に 絹絣のマットミーを織る場合ですが 織り方 染め方には 個々人毎に 微妙に違っています。織りこむ模様は 鳥、花、果物、蛇、樹木、動物 宗教的な物象など 自然界に存在するものに基づいています。この模様は 全国共通なのですが 特定の村では 特有の模様もあります。

 織物を作るには高い技術が要求されます。熟練者で 模様を織りこむ布は 一日に約2メートル、単純に経糸・緯糸を織り込むだけの布でも 一日に9メートル程度を織り上げるのが 精一杯の速さです。